シンゾーさんからのおたより-その15

   
2004.12

ダージャハオ。

みなさんお元気ですか。今年の台北は去年と比較して暖かく、日中は半そででも十分です。

この間(12/3〜7)、ドイツはフランクフルトまで出かけました。2泊5日の年寄り殺しのスケジュールでしたが、無事帰還しました。台湾高鉄について、JR東海(JRC)のエライお方が最近いろんな内外の雑誌にドイツのBWG製分岐器は問題があると指摘し、疑問符が投げかけられています。こと安全に関することだけに、メーカも我々も無視できません。はたして本場の高速鉄道はどんなもんか、と見に行った次第であります。

行き先はDie Bahn(ドイツの国有鉄道、DBと省略)。DBは我々とは何ら関係はないわけですが、親切に案内して頂き感謝感激しました。本論はさておき、まずフランクフルトの駅とホーム。広くて高いドーム構造。午後2時頃フランクフルト〜ケルン(175km)線で途中のリンバーグという田舎まで乗ります。なぜかというとここで分岐器の検査が予定されており、あわせてその晩真夜中にレールを削る作業を見学するためです。この線は珍しく高速鉄道専用線になっています。

DBの車両はごく最近新型が発表されたようですが、現在走っているのがICE3と1世代前のICE1。先頭車両に乗ると運転台を通 して運転中の外の景色が見えます。最高時速300km/hを目の前の風景の飛ぶ様子で実感できます。ガンガン飛ばすのでまるで飛行機に乗っているようです。顧客満足度と臨場感が一杯でしたね。ゆれはありません。

▲フランクフルト駅
▲ICE1
▲ICE3
▲ICE3の運転席をのぞく

リンバーグは古城のあるきれいな田舎町です。ちょうどクリスマスシーズンでごらんのような飾りつけ。一度機会があればたずねてみてください。

ここからの話は鉄っちゃん仲間でもプロの領域にまいりますので、皆さんには予備知識として日本の分岐器の構造をのせましょう。

JRC指摘の第一はゲージ(軌間)です。標準ゲージは1435mm。BWGの分岐器はトングレールの先端部のゲージが最大15mm広がっています。この部分をFakopと呼んでいます。なぜ広げているかといると、車輪がトングレールの先端に当たりダメージが起こるのを防ぐためです。日本ではこのようなゲージをわざと狂わせたものはありませんから、問題点と言われればそうなんでありましょう。この点に関してはBWGは1962年から研究を始めており、理論と実験結果 に基づいて今の設計になったと言っています。またDBは広げたことでトングレールの寿命が延びたと言っています。

2点目はクロッシングの材質と構造です。フランス、日本はマンガン鋼を使っていますが、BWGは普通 のレール鋼です。マンガンの方が粘りがあり、多少の傷があっても即破損まではいきません。特にクロッシングの先端部(ノーズ)は車輪が直接触れることも想定され、JRCは何度もこの危険性をアピールしてきました。BWGの設計はどうかというとノーズには車輪が直接あたらないようにこの部分を押さえ込む機構がついています。現場の写 真でみてください。注目点はレールの”照り”です。ノーズ部には全く車輪が当たっていませんね。

このノーズは本線では高速走行ができるように転轍機で動かすようにできています。前にも書きましたが、160km/h以上の速度で分岐側へ移る場合は分岐の角度の小さいもの(高番分岐)を使います。日本では分岐側へ移るときは速度を70km/hに落とすようになっていて、このため高番分岐は必要ではないといいうのがJRCの言い分です。JREの高崎には38番分岐が1箇所ありますが、この開発には実に5年かかっています。 ちなみに番数nは次式で表される数値です。θはクロッシング部の分岐の角度。 n=1/2 cot(θ/2)

本当にJRCが言うのが正しいのか、はたまたBWGが正しいのか。あえてBWGの社員のいる前でDBの技術者に質問してみた。曰く、これはどちらが正しいかという問題ではなく宗教のようなもんだと。これで妙に納得しました。改宗はなかなか出来ませんからね。

採用されている軌道はレーダ(Rheda)スラブというもの。マクラギが全部コンクリートの中に埋まっています。台湾も分岐器のある駅周辺のみこの軌道構造となっています。

僕は個人的にはBWGの方がメンテナンスコストを考えた設計になっているのではないか、という気がする。安全走行はすでに実証されているのではないか。BWGの分岐器でバンバン事故なしで走っているんだから。そして海外にもBWG製は輸出されている。台湾では地下鉄に400台の注文があったと。JRCが本当に海外に新幹線を輸出したいのならば、世界を知る努力もすべきではありますまいか。日本だけが技術的に進んでいて、海外は全部だめだという発想はもうおやめになられた方がよろしいんでは。面 白いのはJR各社の中でもこの点に関しては温度差があるようで、JR東日本(JRE)はDBとはかなり相性がよく技術交流もあると聞きました。ひょっとするとBWGの分岐器を使って見たいと思っているかもしれません。

夜粉雪の軌道へ向かう。最終列車は11時47分。この列車の通 過をまってレールミリングマシーンでレール表面を0.7mmほど削る。このあと砥石のついた車両で砥石を前後に動かしでレールを磨く。削ったかすを磁石で拾って歩く。朝の2時まで見学したが、ここまで台湾をでてからあまり寝ていない。

▲列車案内板
▲ミリングマシン
▲黄色の縞々のふたをあけると回転する歯がでてくる
▲けずったばかりのレール
▲磁石で鉄粉を集める

残念ながら写真は撮れなかったが、DBの中央監視室を見せてくれた。全ドイツの一日7000本の列車を監視している。一人が8画面 を担当しており、全体で20人位の人が24時間体制。
もし何かで列車が遅れるとここから情報を直接駅のアナウンスに流す。道理で駅の職員が少ないはずだ。ドイツ国鉄とはいえ、経営状態は普通 の会社のようにオープンになっている。
最近電車とバスに使える共用カードを売り出したのはよかったが、ソフトウェアのミスでカードから運賃をとれなかった。その影響で今年のBWGむけのスペアパーツの発注が抑えられたとBWGの幹部はぼやいていました。

▲フランクフルトの街並(女の子はメッチェンで会ったかわいい売り子さん♪)

フランクフルトはマイン川のほとりにある。美しい町だった。何気なく撮った何枚かの写 真を整理してみてハッと気がついた。バスも、路面電車も、乗り場のポールも、地下鉄も同じ青に統一されている。


▲フランクフルトのレストラン前で

フランクフルトで一番高いビル(200メートル以上ある)
♪Merry Christmas♪

今年も年の瀬がやってきました。2回目の正月をこちらで迎えることになります。日本より暖かいので、テニスをやって楽しんでいます。いいお年をお迎えください。

 

しんぞう@台北
2004年12月

 

 2004.12(c)Shinzo

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