シンゾーさんからのおたより-その16

   
2005.2

皆さん、ニーハオマ。

2005年1月27日、日本でも台湾新幹線の試運転のことが報道されました。そのまま受け取ると予定通 り2005年の10月には全線が開通するような気がします。でもこれには政治的な意図があります。真実は僕のレポートしかありませんね。信号がついてない試験線60km区間を時速30km/hで走行することに技術的な意味はあまりありません。日本なら、すべての工事が終わったあとで試験走行を開始し、約3ヶ月かけて300km/hまでもっていき、その後は営業運転に入ります。もともとこのセレモニーは昨年の10月に予定されていましたが、受電設備が未完成で3ヶ月遅れとなったものです。

▲試験走行中の台湾新幹線車両。

THSRC(台湾高鉄)は、建前は民間資本でスタートしました。実はお金が集まらないんです。最終的には政府が出資せざるを得ないので、陳水扁総統もここらへんで走らせておかないと、国会が乗り切れません。鉄道は大きく分けて軌道部分とコアー部分(車両、電力、信号、通 信など)がありますが、前にも書いたように、特に電力、信号が遅れています。僕は軌道の方なので、詳しいことはわかりませんが、信号はまだ工事設計が終わっていなくて、未発注品が多々あり、工事もまともには開始できない状況です。

加えてJRC(JR東海)は日本とヨーロッパ技術がミックスになったことで、今後は積極的には支援しないという対応になりました。従って、日本での軌道保守のトレーニングもありません。THSRCにも大きな問題があります。折角日本で運転のトレーニングをしたのに、実際は香港の地下鉄関係者とか、元フランス国鉄の職員を採用して保守・運転にあてるようにしています。

分岐器に関しては前のレポートでドイツでの話を書きましたところ、「あれは難しくて分からん」とか「シンゾーさんも案外難しいことをやっとるノー」とかコメントを頂きました。軌道のなかでは分岐器は一番難しいところで実は僕は耳学問で分かったようなことを言っているだけです。もう何回もこのレポートで書きましたが、軌道はドイツと日本の技術のミックスになりました。ことの始まりはこの分岐器がスタートでした。その経緯を整理してみましょう。

まず台湾新幹線の仕様書は160km/h以上で分岐側を走行可能なこと、が記載されています。しかし、JRCには70km/hで走行する分岐角度の大きい分岐器しかありません。この仕様書はもともとヨーロッパ人が記述したものなので、当時のヨーロッパの感覚からすると問題はないかもしれません。が、当のJRCにするととても呑めません。そういう分岐器はJRE(JR東日本)の高崎に一台あるだけです。JRCのおえらい方はJREとは犬猿の仲でとても頭を下げてこの技術を使わせてください、とは言えません。そこでドクターT(別 名Tジョンイル様)がえらく頑張りました。「駅のところは日本の新幹線方式で70km/hに落とせばいい、高速分岐は不要だ」と。

しかし、仕様書から明らかに外れている以上THSRCも容易にはOKというわけにもいきません。すったもんだで時間を浪費し、もう待てないという段階に至り、TSTJV(台湾新幹線ジョイントベンチャ)はやむなくドイツのBWG社の分岐器の採用を決定しました。当時の事情に詳しいJARTS(海外鉄道技術協力協会、JRよりこの会社に出向して海外向けの援助をしている社団法人)の関係者に聞いてみると、代案として高速分岐を設計したらどうか、と具申したそうです。分岐器メーカもその設計のためのエンジニアを集めようとしていた。しかし、Tジョンイル様がどうしても首を縦には振らなかった。JARTSのK氏は納期上BWGを採用せざるを得ないと判断されましたが、Tジョンイル様の怒りに触れ、突然日本から帰国命令が出て違う部署へ異動となりました。その時歴史が動きました。2003年夏のことでした。

その後は必然的に次のような経緯になりました。もしも、という仮定のもとでは右のような流れもあり得たかもしれません。

昨年末からTジョンイル様は内外のマスコミを使って、”日欧のミックスは安全走行上問題がある”とキャンペーンを張っておられます。でもBWGやDie Bahn(ドイツ国鉄)へ調査に行ったという話は聞いたことがありません。

鉄道はそもそもヨーロッパがパイオニアですが、高速鉄道は新幹線の方が歴史があります。ヨーロッパではもともと機関車タイプで客車の前後に機関車がついており、重量 が重い構造になっています。それゆえ加速・減速に時間がかかるため、高速分岐が必要になります。これに対し、新幹線は車軸にモータがついており、軽量 でしかも加速・ブレーキ性能を高めています。最近のICEもこの新幹線方式を採用しています。したがって新幹線では高速分岐は必要ではなかった。つまり、ヨーロッパの高速鉄道には高速分岐がないと走れないが、新幹線の車両ではそんなものは不要だ、ということになります。そこで問題。ヨーロッパの分岐器の上を日本の車両が走ったら果 たして安全上問題あるかどうか?

TSTJVはビジネスで軌道の建設を請け負っています。事業として儲けるためにやっているわけで、当然金と納期にしばられます。いままで述べて来たような議論を延々とやっているわけにいきません。JRCは一応民間会社ですが、上の方は官僚構造が色濃く残っています。日本では一番儲かる東海道を運営しています。これは石ころをばらまいた昔のバラスト軌道で過去40年間新線は作っていません。

一方JREは上越、長野、東北とあまり乗客数も望めないところで新線を作っています。当然より安価なものを作ろうと努力する必要があります。JRCはバラスト軌道の保守だけで日銭40億円の収入です。遅れが出たり、止まったりするのが一番営業上こたえます。レールは最大13mmまで磨耗を許容されていますが、そこまで待つ必要はありません。9mm磨耗すると更換します(JR用語では交換ではなくて更換という)。もしも電車が遅れたら責任を取らされますから、変なコスト意識をもつと担当者はたまったものではありません。このつけは運賃にちゃんと反映されますので、結果 的に国民が高い料金を払っているということになります。メーカもJRCの言うとおりにやっていれば定期的にスペアパーツの発注があります。営業努力も値引きもする必要もありません。僕は前から日本は社会主義の国だと言ってきました。こういう官僚構造がなくならない限り、また競争がない限りいくら分割民営化しても無駄 はなくなりません。

話をもとに戻そう。しかし、このようなむなしい議論をTHSRC、JRCとやってきて本当に台湾新幹線は台湾人のためになっているのか。今のTHSRCには残念ながら、保守のことまで真剣に考える人はいません。保守の点から言えば、高速分岐もレーダスラブもコストが高くつきます。またTHSRCで雇われている青い目の鉄道屋は人のつながりで世界を転々と動いています。別 に台湾のことを考えて働いているのではありません。なるべく長く台湾で稼ごうと思ったら、色んな難癖をつけて工事を、運転を遅らせばいい。安価で品質のいいものを作ろうなんてTHSRCの誰も思っていないといったら言い過ぎでしょうか。

この世界に入って分ったのは鉄道技術は一部の関係者しか知識・経験をもてないということです。これまで鉄道建設は鉄建公団(今は鉄道建設・運輸施設整備支援機構という独立行政法人)が独占的に新線の建設を請け負って来ました。台湾新幹線で初めて民間が高速鉄道の建設に携わりました。その意義は大きいのですが、かといって民間には出来ないものがあります。それは安全上欠くことのできない品質の確保です。今回はJARTSのスタッフが設計、建設の段階でチェックされています。こういう第三者のチェック機構が絶対に必要です。僕は三菱重工(MHI)の関連会社からここに派遣されています。こういうことを本当は書きたくないのですが、三菱自動車の問題はMHIの体質でもあると感じているからです。

台湾にはハイテクの部品を作る会社はあります。しかし、重工業はありません。したがって、軌道保守に必要な非破壊検査などの技術者は育っていません。そのうえ中国人は金儲け第一主義ですから、地道に裏方で保守をやろうという意識は希薄です。台湾国鉄から人材をもってくるなら別 ですが、ど素人の寄せ集めでは軌道保守は出来ません。

▲問題の分岐器は完成後のもの。果 たして問題はあるのか。


閑話休題

台湾の気候になれてしまったから、春節に日本に帰ったら、おお寒! こちらへ帰っても暇だから、世界一高い101ビル(510m+)へ行きました。 同僚のSさんが「こんなもん撮ってどうするんか」というのですが、日本の味は世界で、台北のビジネス街で頑張っているぞという証拠を伝えたかったからね。

今天下雨了。(ジンティエンシャーユイラ)このところよく雨が降りますね。 こぬかぁ雨降る中山(ツォンシャン)通りぃ♪なのか、台北は今日もあめぇだったぁ♪なのか。天気也不好。雨では休みになってもすることがありません。こういう日は専属の小姐のいる美容院へいきましょう。     

台北の世界1ノッポビル101と日本の味

▲世界一高い信義路の金融センタービル(通 称101)
▲このビルの中の地下一階は飲食街で 伊勢丹に入っている中島水産がすし屋を出している。 ここのすしなら安全、うまい。
▲山崎パンは日本の味かどうかは議論の余地がある。

今回は辛口評論でした。

再見
2005年2月

 

 2005.3(c)Shinzo

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