シンゾーさんからのおたより-その25

   
2006.5


大家好。

皆さんお元気ですか。

ようやく台湾新幹線もほぼ全線走行が出来る状態になりました。試運転も2004年8月高雄〜台南間を始めとし、北へキロ程(台北を起点とし高雄方向へ)40kmの桃園までやってきました。ここから北は板橋(キロ程13km)、台北と続きますが、板橋から北は地下にもぐります。<台湾の地図を見る

▲桃園の駅にはいる試運転車両(桃園は中正国際空港に近いため地下駅になっています)

でもこのトンネルはもともとヨーロッパ仕様で作られていますので、日本の新幹線車両が走るにはちょっと問題があります。ヨーロッパの車両は4人掛けに対し、日本は5人掛けです。それだけ新幹線の車体の幅が広くなっています。このため、高速でトンネルに入るとあちこちに当たる可能性があるわけです。このことは関係者の間では前から分かっていたのですが、台湾高鉄が事実を公表して来ませんでした。開業後も台北からは当面 無理。しかも最近の報道では運転手も訓練が出来ていないからという理由で開業が2007年1月に延びました。

過去いろんないきさつがあり、台湾高鉄とJR東海とは険悪な関係になっています。このため台湾高鉄はフランスからトレーナを雇い入れ、通 訳を通して台湾人に新幹線の運転訓練をやっています。でも何だか変。これで本当に運転できるの。当初の開業予定を一年遅らせ、ここに来てさらに延期せざるを得ない事態となっていますがどこまで延びるのか。台湾高鉄の信用はガタ落ち。また仮に開業できても肝心のメンテナンスの人間がいまだに採用できずにいる現状からすると安全と信頼性は危ういと言わざるを得ません。最後は今の台湾高鉄の経営陣を入れ替え、台湾国鉄と合体させ、なんとかJRの協力を取り付けることになるんでしょうか。工業立国ならまだしも、自分中心で目先の利益を追求する中国人社会では匠の世界の保守作業はなじみません。

だいたい高速鉄道を民間がしかも経験のまったくない民が建設し、ノーテクの民が運営するというのは大きな問題があります。ぼくは軌道部品の敷設データを取りまとめる仕事を担当してきました。レール6万本とその溶接、スラブ13万枚などの一個一個のデータの収集とそのチェック。これらはあとで品質上重要な欠陥が発見された時、問題の部品がどこに敷設されているか検索するためのものです。ISOではTraceabilityとしてこれらが求められています。レールは100〜150mごとに製造過程でロット管理され25mのレール一本ごとにこのロット番号が刻印されています。一度新日鉄の人が来られ、敷設データをもとに現場で品質の確認をされたこともありました。

鉄道建設は昔は鉄道建設公団、今は鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下機構という)がJR各社から鉄道建設業務を独占的に引き受けて行っています。台湾では建設はまったくの素人の民間が担当しています。そこで機構から技術者をアドバイザとして派遣してもらい建設を行っています。この体制でも建設はできるのですが、民では品質より利益を優先させる傾向があり、建設が終わるとすぐ品質管理の人間を削減するのです。その結果 どうなるか。先ほどのもろもろのデータはなかなか揃いません。敷設後一年かかってやっとまとまるという状態です。もし、Traceabilityの規定が契約になかったら、もうむちゃくちゃ。やりっぱなしになっていたに違いありません。

機構ならこの費用をすべて検査費用に織り込んでいます。完成後はチームを組んで全線を歩き収集したデータを足で確認していきます。こういう点では機構はしっかりしているのですが、実は彼らは新幹線を作り続けないと仕事がないという特殊性を併せもっています。その結果 日本国中需要があろうとなかろうと政治家を巻き込んで新線を作り続けるといえば言い過ぎでしょうか。

そこで小泉総理のいう“民でできるものは民で”というキャッチフレーズは小気味よく響くのですが、結局収益が上がらないと肝心の安全が犠牲になる危険性を孕んでいます。一年前の福知山線の脱線事故。いまだに本当の原因は解明されていません。決して単一の原因だけではありません。JR西日本は果 たして自分の手で真実にせまり、それを公表することができますか。耐震強度偽装事件もそうです。民でやってもいいけれど安全に関するものはちゃんとした第三者機関が調査・監督しないとだめなのではありませんか。

話が変わって前回予告編で紹介した蘭ユゥイ(山へんに與)へ行って来ました。台北から夜行列車で朝6時半台東に着きます。そこから高速船に乗り、2時間半。デッキに出て船を追いかけて来るかもめをカメラで追っていたのがいけなかった。ゲロを吐きながら“オラはシンジマッタダー”。

その昔海底火山であったところが隆起してできたのがこの島。全体が溶岩のよう。台湾の最南端までやってきたが、海は沖縄の方が透明度が高く美しい。蘭島という名前なのになぜか蘭はない。

▲風景1 ▲風景2
▲夕暮れに群れる山羊 ▲メジロの亜種(ここしかいない

ここの住民は殆ど原住民ではなかろうか。ここからはフィリピンが近い。スピーカから流れる音はタガログ語のようだ、とバードウォッチングの師、古谷先生の弁。古谷先生はプラントの計装設計・工事の専門で世界各地で活躍した実に頼りになる人。軌道でも分岐器のモニタリングシステムというのがあり、その筋の専門家でないと処理できないため、いろいろ手をつくしてここまで来て頂きました。普段は血糖値がいくらだとか気にして自炊までされているようですが、“鉄道はロマンだ“の文句がでるとですね、一旦飲みだしたらもう止まりません。ロマンとロマンスの違いくらいはわかっとるんでしょうなー。66歳。

▲メンバー(後ろ左から3人目が古谷さん)

この島でしか見られない貴重な珠光鳳蝶、おまけに珍しい交尾の光景もお目にかけましょう。この蝶は卵から幼虫、さなぎ、そして蝶へ変身するのに実に7年

▲珠光鳳蝶の幼虫 ▲交尾中です

前回Xiamen(ガンダレに夏と門)はどれがアでどれがモイなんじゃいと書きましたところ、古谷先生が調べて下さいました。これは福建省を発祥とするホーロー語で、エームンやエームイが語源ではないかということでした。このホーロー語は台湾で広まり台湾語になっています。

2006年5月

 

 2006.5(c)Shinzo

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