シンゾーさんからのおたより-その26

   
2006.7

 

2006年6月30日、台北の南15kmの板橋から高雄間(330km区間)の台湾新幹線のほぼ全線に亘って300km/hの速度向上試験が無事完了しました。やっとここまで来た、その感激が急に胸に迫ります。全員の努力のたまものです。残念なのはBWG分岐に精魂をつぎ込まれた吉田さんが尊い命を落とされたことです。奇しくもこの日、吉田さんの葬儀の日でした。書いていると涙がとまりません。慎んでご冥福をお祈り申し上げます。

そして7月5日、試乗会。1000名近い関係者が参加しました。台中―嘉義間(86km)を約20分で走行しました。“ただいま300km/hで走行中”のアナウンスに全員拍手。乗り心地は申し分ありません。“すばらしい出来だ”。JARTS(海外鉄道技術協力協会)のトップの言葉でした。

いよいよ試乗 時速300km!(06.7.5)

速度向上試験は安全走行を確認した後、130km/h近辺の速度から開始します。輪重(P)、横圧(Q)と列車動揺の測定で、問題がなければ20km/hぐらいのピッチで速度をあげていきます。輪重、横圧はそれぞれレールに作用する下方向と横方向の力をいい、両者の力のバランスが脱線に大きく影響します。横圧を輪重で割った値(Q/P)はいわゆる脱線係数と言われ、0.7以下が安全走行の判定基準となっています。もし、この値以上が測定された場合には即座に速度を落とす必要があります。

速度向上試験 データ解析中

PQ値異常の原因としては軌道狂いやレール面の凹凸が考えられます。よく問題となる箇所はレール溶接面の水平度や分岐器内の可動レールの接着の良不良があります。高速走行時にはレール面にわずかの凹凸があっても車体が飛ぶ状態が発生し、そのとき輪重は小さくなります。また分岐器は列車の進行方向を無理に変える装置であるため、横方向の力を受けやすいところです。今回採用したBWG分岐器は可動部のスイッチレールが接触する部分の軌間が大きくなっています。これがJRからみると故意に軌道を狂わしていると見えるわけですが、ドイツでは逆にこれで分岐器の寿命が長くなったと言います。このふくらみが写真でわかるでしょうか。本来の軌間1435mmに対し最大1450mmになっています。 

BWG分岐器

台湾高鉄の予定では今年10月31日、板橋−高雄間で営業運転に入るようになっています。8月末までは日本側も面倒をみる予定ですが、問題はその後です。いまは試験運転中なので元JRの運転手が運転しています。開業後は運転はフランス人、車掌は台湾人で指令はドイツ人が担当します。緊急時は英語になるのでしょうか。おまけにこのフランス人、クレペリン検査(運転適性検査)をしたら、半数が不合格とかききました。でも運転手が少ないので彼等が運転しないと走りません。というわけでぼくは開業後は乗りませんよ。危ないでっせ。

中央指令質(桃園)

いま、ぼくの仕事は最後の完成図書と工事完成記録のまとめになりました。3年半に亘ったこの旅もまもなく終わります。台湾新幹線はぼくにとって正にロマンでした。未知へのチャレンジ。多くの感動も与えてくれました。そして素晴らしい人にめぐり会いました。謝謝。

テニスでは地元の“快楽”チームに入れてもらいました。ぼくはこのチームの日方代表です。コーチの唐先生は67歳ですが玉スジが違います。昔、プロのテニスプレイヤーだった。レンドルとも戦った。また、李先生はオリンピックの体操選手でした。岡山での体操の選手権大会にも出場した経験があります。今は体型が丸くなって体操選手の面影はありませんが、得意は鞍馬だったそうです。ラケットは右手でも左手でも打つことができるのでリーチが違います。現代版宮本武蔵。マッチョな人が多く、球が速いんです。これに対抗すべく、ぼくはいま華麗なテニスに変身中です。みなさんも努力しないと、もうぼくには簡単には勝てなくなりますよ。

唐先生 李先生(右から2人目)

同僚の西澤さん、渡辺さんは土木、建築のエンジニア。姉歯事件では一級建築士の信用が地に落ちたとなげいていました。二人とももう10年以上台湾に住んでいる達人です。西澤先生は最近帰国後人間ドックで検査したところ糖尿病といわれ、本人から“落ち込んでいます”、と書いてきました。そのメールを読んだ渡辺先生は相あわれむ間柄でしょうか。めずらしく”今日は酒をひかえるぞ”と。台湾に長くいて、酒とxxの日々を送っているとああいう体型になるのでしょうか。でもご同輩、毎日のてんこ盛のメシを減らさんと。

いままで何回かこちらでもそばパーティを開きました。これがなかなか好評で最近は次の予約まで入るようになりました。台北にもそばやはあります。台北出張だった元NTTデータの人が定年後修行して始めた店です。しかし、肝心のそばがつながっていません。台湾でそばがとれるのかどうかは知りませんが、粉でなく殻つきで日本から輸入し、打つときに挽くんです。そしたら3たて(挽きたて、打ちたて、茹でたて)のうまいそばは間違いなし。渡辺さん曰く、「イノさん、台湾にこのままいてそばやをやろう。台北だけでも日本人は数千人いるから、絶対に商売になるはず」。年金だけでは暮らせないし、マジに考えましょうか。

夏は暑いので鳥もあまり見えるところには出てきません。しばらくぶりに陽明山へ行ったところ、偶然にも五色鳥の巣をみつけました。L字型をした穴ですが、鳥がすっぽり入るということは、かなり中は広いんでしょうなー。


Birds Gallery

Photo by Shinzo


2006年7月

 

 2006.7(c)Shinzo

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