シンゾーさんからのおたより-その28

   
2006.10

 

みなさんお元気ですか。
10月に入り、実に快適な気候となりました。これからは日本よりも台湾の方がロートルにはやさしい。安倍先生が総理になったおかげで、我輩の株も上がりましたね。悪いけど、安倍晋三先生はぼくの兄弟ということにしてある。逆説的だが、北朝鮮はわが国の総理を育てた。

台北では一ヶ月ほど前から民進党で元の施明徳主席が音頭をとり、赤シャツ軍団が気勢を上げています。駅前での初日には前の道路を埋め尽くしていました。報道では30万人とか言っていましたが、実際は3、4万人ではないか。このニュースは日本でも大きく報道されましたので、事情がよく分らない人には今にも陳水扁政権が倒れるのではないか、という印象を持たれた人がいても不思議ではありません。

しかし、夜遅くまで座り込み、“阿扁下台“(扁ちゃんヤメロ)の大合唱を小姐の甲高いスピーカの声につられて流しても所詮お祭り騒ぎでしかありません。しまいには、カラオケですからね。駅前のホテルに住んでいるぼくとしては、本当にうるさい。要は、陳水扁は親族が不正な株取引で儲けた。が、われわれには何も回ってこない。どうなってるんじゃい!

この赤シャツ軍団が陳水扁の故郷の台南へ行って、同じことをやろうとしたら、陳水扁派の緑軍団に取り囲まれ、車はぼこぼこにされ、警察の援護でようやく脱出するハメとなりました。台北市長馬英九が率いる国民党としては敵がお互いに傷つけあって弱体化するのはもっけの幸い。取り締まりは敢えてせず、放っておいたほうがいい。政治好きの台湾人、でも高邁な思想も緊迫感も感じられませんね。2008年暮れには総統選挙がある。国民党は過去2回負けているが、今度負ければ多分賞味期限切れになるでしょう。不思議なことに国民党は永遠と思ったか、台湾の国旗?は国民党の党旗。この国民党の本部がわがビルに引っ越してきてから、にわかに騒々しくなった。馬英九が来るといえば報道車が集まり、そこでまたハンストをする人も出てきた。

▲台北駅前を埋めつくす30万(?)の赤シャツ軍団。(台南でぼこぼこにされた車はカバーがかけられ、みえなくなりました。)
▲中央が中華民国の国旗。その両側は国民党の旗。 ▲国民党の事務所が来てから玄関に獅子が座った。

日本人もある意味ではこれを見習う必要がある。福島県民や岐阜県民は税金不払いの座り込みをやるべし。昔の時代の方がもっと真剣に生きていたのではないか。60年安保では樺美智子さんが命を落としたり、成田では農民を巻き込んだデモで騒然とした時代がありました。社会党の佐々木委員長は得意?のズーズー弁で「グンシリクシンスークン ノ ヌーコーヲ ズッタイニ スシスナケレバ イクマセン」と言っていた。右には赤尾敏もいた。でも今はグンシリクシンスークンがヌーコーしてもみーんな大人しく怒らなくなった。

9月28日の朝日新聞。台湾高鉄は10月31日の開業をさらに数ヶ月開業を遅らせると、報道されました。ロイズ船級協会の安全審査にパスしなかった、というのが直接の原因です。運転手が不足している上に、駅員スタッフの採用や訓練が遅れている。発券システムがまだ稼動していない。予定通りメンテナンスがまだできるかどうか危うい。そして問題発生から数ヶ月も経っているにもかかわらず、いまだに分岐器の転換不良というややこしい問題が完全には解決していない、などなど。BWG製分岐器とシーメンス製転てつ機の組み合わせは高雄の地下鉄でも同様な不具合を起こしています。元はと言えば、転てつ機の使用実績が35年以上という条件がついたため、やむなく日本製をやめて35年前のシーメンス製に変更したのが原因だと関係者は語っている。BWGとシーメンスが責任のなすりあいをやり、ドイツの技術レベルも下がったものだ。分岐器がまともに動かんとほんまに危ないでっせ。たかが分岐器、されど分岐器。


分岐器(ポイント)はBWG製、転てつ機(○囲み)はシーメンス製。


最近の報道では12月7日に小泉前総理も出席して、開業記念式典が開かれる予定。
開業は12月にできるかどうかはまだ不確定のようですが、検査の合格後遅くとも旧正月までには開業したい。乗車料金も決定しました。台北―高雄間は一般クラスが1490元(5,300円)、ビジネスクラスは2440元(8,600円)。そして、今日、10月30日、旅客機の運賃は現在2200元を1700元に値下げになるとアナウンス。ここは競争原理が働いている。

最近ヨーロッパで、たて続けに鉄道事故が起こりました。9月23日ドイツ。高速リニアモーターカー「トランスラピッド」が試運転中に時速200kmで点検用車両と衝突。23人が死亡。また、10月11日、フランス。ナンシー行きの普通列車とルクセンブルグ行きの貨物列車が正面衝突。死者は双方の運転士を含む6人で、16人が重軽傷を負った。どちらも、絶対にあってはならない重大なヒューマンエラーです。特にフランスの列車正面衝突は、台湾高鉄の問題でもあります。これは双方向運転といって、線路を昼間に保守する際、保守をする片側の線路を閉鎖し、上り(下り)列車を一時的に下り(上り)車線を使って走行させるもの。この事故のように同じ車線で正面衝突する危険性があり、列車制御システムはより複雑になっています。ヨーロッパの仕様をベースとした台湾高鉄ではこの双方向システムが採用されています。JR東海はこれが安全上大きな問題として支援を中止しました。結果として台湾高鉄はフランス人の運転手を採用するしかなかった。

運転手の問題は当初から大きな問題でした。ここまでこじれる前、一度JR東海も、台湾高鉄のトップを入れ替えフランス人を首にするなら協力してもよい、というスタンスでした。が、インキ(殷+王へんに其)女史が社長の台湾高鉄はこの要求は呑めなかった。インキ氏はハーバード大学出身の才媛。未婚だが娘が2人いるかなりのやり手。しかし、このツケは台湾国民が負担することになります。日本の新幹線を全面的に採用していたなら、JRの支援のもとで一年前に開業できたはず。

:インキ氏

高速鉄道、航空機、原子力発電など高度の信頼性と安全性が求められる産業では、一般にRAMS(Reliability, Availability, Maintainability and Safety)と呼ばれる信頼性分析が設計段階で要求されます。これは使用部品ごとの故障率とそれが故障した場合の事故の程度を分析し、統計的に脱線事故のような大規模災害の大きさを推定するものです。この手法は欧米では当たり前ですが、JR東海では過去40年間脱線事故も乗客の被災者もゼロである。ゼロはいくら掛けてもゼロである。従ってRAMSは無意味である、との天の声でRAMSの検討そのものが封印されてきました。ぼくがJR東海がアカンと思うのは、こういう純技術論を政治的に押さえつけ、これに反対する人は冷や飯を食わされる風土がDNAとして残っているからです。

ちょっと待った。本当に安全なのか。単に幸運だっただけではないのか。1995年の阪神・淡路大震災は午前5時46分、幸いにも新幹線は走る直前だった。また2004年の中越地震のときは脱線はしたが高架橋からの転落事故には至らなかった。乗客も少なかったし対向車線の列車も走行してこなかった。もし仮に、東海道新幹線で脱線事故が起ったら、どうなっていたか。考えただけでもぞっとする。わが国の鉄道の脱線事故の調査によると、7段階スケールで5から6−の強度の地震では新幹線の脱線事故は起こっていない。また、ローカル線では計測震度6+〜7で基礎構造物が被害を受けたため、脱線したケースが過去16件報告されている。ちなみに、中越地震は計測震度6強が観測されていた。

台湾新幹線ではJRにRAMSの知見がないため、この分野で世界的に権威のある英国の会社ATKINSに分析を依頼しました。乗客には犠牲者が出なかったものの、新幹線開業後の1964年から1976年の13年間で保守要員は28名の命が失われています。フランスでは、1992年TGVで乗客27名死亡。その翌年にも乗客1名死亡。ドイツでは1998年、220km/h走行中、車輪の欠陥で脱線。電柱に激突し99名死亡、100名の重軽症者。2000年ユーロスターで290km/hで走行中脱線14名軽症。これらを統計処理して、脱線事故の頻度は33年に一回とATKINSは報告しています。こういうデータが外部に洩れるのをJR当局が恐れたのではないか、とぼくはみています。

ぼくが心配するのは高速鉄道は一度事故がおきると大惨事になることです。40年間事故が起きていないからこそ、軽んじる話ではありません。失敗学で有名な工学院大学の畑村洋太郎教授は「組織は必ず失敗を繰り返す」と言っています。責任問題とは切り離して、徹底して原因調査をやりそれを公開し後世に残すことが重要と説いています。御巣鷹山に墜落したJALの機体も羽田に展示してあるそうです。

今回は新聞に載らない内幕を公開しました。都合によりこのサイトは関係者には伏せてあります。

2006年10月

 

 2006.10(c)Shinzo

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