Middle Agers' Spirit in Hokkaido−その2
<バックナンバー:その3へ, その1へ >

 

7月1日(礼文ー稚内ー豊富)同道:水上さん、西薮さん、スーさん
稚内で中原さんと別れ、水上さん、西薮さんと落ち合う。ここでスーさんとも分かれる予定でありましたが、スーさんには今日のあてがなさそう。ならば次の宿まできたらどうかと半ば強引にさそう。

ここからがツアーの本番です。
西海岸にそって南下しますが、別名オロロン街道という。由来のオロロン鳥はウミガラスのことでオロロロ... と聞こえるなき声からそう呼ばれている。しかし絶滅の危機にある。 豊富(とよとみ)よりもう少し南の天売島(てうり)が繁殖地なのだ。 右手はるかに利尻島を望みながら平坦で、はるかな道を行く。牧草がはえているほかは民家も何もない。しかし、雄大な自然である。南風が強い。あとで思ったのは、逆に札幌から稚内の方へ行けば、順風を背で受 けて楽だったのではないか。

アウトドアー派の水上さんは、さすがに準備がいい。
バーナーを持って来 ている。昼はこれで砂浜でジンギスカン料理。北海道はどういうわけか、どこへいってもこのジンギスカンなのだ。ニュージーランドなら分かるが。 僕はマトンと言えば今まであの独特の臭いがあまり好きではなかったのだ が、北海道へ来てこの考えを修正する必要がありそう。そう、なぜか臭みが ない。YDO(ヨー、誰か教えて)。これはどういうことなんだ。

アシタノジョー
もう少しで豊富に着くころスーさんが車で迎えに来ている。助かるなー。 今日の宿は「あしたの城」と言うんだが、広いサロベツ原野のはずれに あった。自転車できているのは自慢ではないが、我々だけ。
夕日がとても美しいというので宿の奥さん主導で海岸まで出かけるが、 この日は残念ながら曇っていて壮大な景色を見ることは出来なかった。

宿のオーナーは佐世保の出身だとか言っていたが、いれこみかたがひと 味違うナー。ひょっとしたら昔アマのボクサーくずれなのか。ホセ・メンドーサもカーロス・リベラも部屋の名前になっている。夕食は多分こ の宿の定番のようだが牛乳鍋。「いいですか、みなさん。はい。最初にこれ 入れて、次にあれ入れて、それはいれないで。」というのにはまいりましたな。でも結構うまかった。水上さんは「もう二度とくるもんか」 といきまいておりました。こういうところには、宿帳というか落書き帳 とかをおいとくもんだよ。後で書く塩狩峠のような貴重なフィードバック がとれるんだから。
この日は約70km。

7月2日(豊富ー美深)同道:水上さん、西薮さん、スーさん
早朝スーさんの車で今日のコースの下見がてらドライブする。登り下り もない平坦な道。僕は昨日までで少し疲れ気味もあり、この日は一早く一人抜けして、サポーター役にまわることにしました。
美深(びふか) までは約110km。先に町営の美深温泉に入りまず一風呂。ここでは村おこしにチョウザメの飼育をやっている。ロシアと技術提携し、キャビアがとれるようになるまで、苦労したらしいがチョウザメが玄関脇の休憩室の一角にある水槽のなかで泳いでいました。まずはビールでうがいをして、ためしにチョウザメ料理を頼む。果 たして珍味か美味か。ウン。 うなぎの蒲焼き風に味付けしてあり、肉も柔らかく、意外やいけるんですね。

性欲が刺激され、寿命が延びる!
チョウザメ料理はここだけの専売特許かと思ってホームページで検索してみると、意外と全国に何ヶ所かあるんですね。東京近辺では秩父の 小鹿野町に煌魚亭というのが載っている。興味があったので更にウェッブ・サーフィンをやって分かったのは、この魚は古くから食材として利用されていたこと。西洋では古代ローマ時代より『ロイヤルフィッシュ』、中国では『煌魚(エンペラーフィッシュ)』と呼ばれ、時の王や皇帝が自らに献上させたという歴史を持っている。そしてその肉を食べると性欲が刺激され、寿命が延びるとの伝説が生まれた程です。また欧州ではチョウザメ料理がメニューに無ければ三ツ星レストランとして認められないほどの高級食材となっている、と書いてある。な、なんとグルメの仲間内なんですね。決して、キョウザメなどと言わないでください。
終わってからこんなことを書くと、食べていない西薮さん、水上さんがくやしそうだから、これ読んでも黙っていてくださいね。

荷物はサポーターの僕が運んだが、よくがんばった。西薮さんはまだ走り足りないようだ。何とか走り終えた水上さんは、もともと満身創痍の身 だったが、この日新たに手のしびれが加わった。死ぬ覚悟で参加したにしては軽い、軽い。

7月3日(美深―名寄―士別―塩狩)同道:水上さん、西薮さん
天塩川を何度か横切りながら川沿いに進む。自衛隊の車が多い。名寄にも基地があったか。士別 では、たまたま紹介してもらってたまたま入ったラーメン屋で食事中のおじいさんが突然倒れ、救急車をよんだのでした。 やはり、我輩が行くところ何かが起こるんだ。

この日は塩狩温泉YH。塩狩峠の頂上にある。
塩狩峠とは、その名の通り、 天塩(士別、名寄、稚内など)と石狩(旭川、札幌)の区界にある峠で、この峠を境に、南は石狩川水系へ、北は天塩川水系という分水嶺であるのですが、海抜270mくらいで奥多摩に較べりゃ平地に近い。

最初はこの塩狩には泊まる予定にはなかったのですが、渋谷さんが、 高い峠がある、というガセネタを流すもんだから、急遽変えたいきさつがあります。そうでなければ、YHなんかにはトライしませんよ。YH はずっと前のペアレントのイメージが頭のすみに残っているので今更 ユースかよー、ということになりますからね。そうでなくても氏家さんの罵声が聞こえてきそうだ。「バカ言ってんじゃないぞ」と。

このユースにはあと3人来ていた。バイク、車、自転車と多彩 でありました。自転車は尼崎のオッサン。勤続何年かのリフレッシュ休暇を一人で、 走り回っていました。よく自転車がパンクするというので、テクニシャン水上の出番です。彼が持ってきた携帯空気入れが役立たずだったので、稚内のマーケットで実用本位 の家庭用のヤツを760円で仕入れたんですが、ここまで来て初めて役に立ちました。西藪さんが積んできたのですが、「こんなもん持っていくんかいな」。ガラにもなくはずかしさがあったか。

部屋にはノートが置いてある。読んでいると、なかなか興味深い。女性の書いたものも多いので、この部屋は共用なんだ。ハングル文字も英語も混じっている。昔は珍しく混浴もあったらしい。ノートにある。裏若き 女性が早朝温泉に入っていたら、突然男性の従業員が掃除に入ってきた。 驚きと怒りが重なって、大きな字でジジーが、ジジーがいきなり入ってきて、もう頭にきたー。ここの経営者はどうなっているんだー、と殴り書き。 そして次の日にはオーナーが丁寧に返事を書いている。毎朝6時から6時半までは掃除をするきまりになっているのであしからず、と。女性の恨み節がよく分かるが、当事者でないから笑いがこみ上げてくる。

YHでなければ味わえない…
しかし何がこのぼろ宿をひきつけるのか、は次の文を読むと分かってもらえるだろう。ここには愛があるのだ。多分あなたもこの手に弱いはずだ。 毎年2月28日夜はアイスキャンドル(氷でマグカップを作り、その中 にろうそくを灯す)でミサを行う。一回きたら、何度もくるほど、病みつきになるという。30回も40回も来たと書いてある。こういう交流はYHでなければ味わえないので、まんざら馬鹿にしたものでもない。 何かの縁で今回ここにきてしまった。でも良かった。本当に。渋ジーさんに感謝しよう。

たったいまこの速度なら、自分の体でこの車両をとめることができると、信夫はとっさに判断した。一瞬、ふじ子、菊、待子の顔が大きく目に浮かんだ。それをふり払うように、信夫は目をつむった。と、その瞬間、信夫の手はハンドルブレーキから離れ、その体は 線路を目がけて飛びおりていた。

三浦綾子の小説「塩狩峠」のクライマックスである。ここには三浦綾子の旧宅が記念館として、旭川から移されている。小説は実話に基づいて書かれている。

明治42年2月28日夜、塩狩峠に於いて、最後尾の客車、突如連結が分離、逆降暴走す。乗客全員、転覆を恐れ、色を失い騒然となる。 乗客の一人、鉄道旭川運輸事務所庶務主任、長野政雄氏、乗客を救わんとして、車輪の下に犠牲の死を遂げ、全員の命を救う。その懐中より、クリスチャンたる氏の常持せし遺書発見 せらる。「苦楽生死 均(ひと)しく感謝。余は感謝して全てを神に捧ぐ。」

と記念碑は書いている。その時長野氏は30才の若さであった。

僕は早速本をそこで買ったのですが、翌日朝食を終えてから「塩狩峠」のビデオがあることに気がついた。惜しいかな。もう見ている時間がない。 僕は帰ってから、これをどうしても見たくなり、東京近辺の図書館に置いてないか調べたのですが、残念なことにどこにもありません。でもどこか の教会にはあるかも知れない。もし読者がクリスチャンなら、当たってみてください。感動物だときいたんだ。

冬の内陸はめっぽう寒いらしい。零下30、40度にもなるという。塩狩の北は和寒(わっさむ)。この字を見ただけで寒気がしてきそうだが、ここでは2月の下旬風のおだやかな日、熱気球をあげる。真冬の塩狩峠も一回来てみたい。
この日は意外に走った。91km。
いよいよ渋ジーさんが今晩から参加する。 ようやく役者が全部そろった。

つづく

2002.7 (c)Shinzo Inohara


「Middle Ager's Spirit in Hokkaido-その3」へ。
今回の北海道の写真もあわせてご覧になりたい方は http://www.digi-box.jp/hokkaido をどうぞ。
このほか、2000年にも自転車で奥多摩の山登りを敢行しました。下記をチェック!
http://www.digi-box.jp/okutama/album.html

目次

シンゾーさんへのおたより、ご感想は shinzo@whi.m-net.ne.jp へ。
このHPに関するお問い合わせは nakajima@digi-box.jp まで。