Dubai report from Sinzo-4

2008.10 

 サラム・アレイコム(こんにちは)

 皆さんおげんきですか。
 こちらも10月に入ると、朝晩はしのぎやすくなりました。まだ、日中は37度位ありますが。今回は“海外で活躍する電気屋”の話です。
 ドバイメトロのような交通システムは正しくは軽量軌道交通、略してLRT(Light Rail Transit)と呼ばれています。高速鉄道とLRTとの大きな違いは◎文字通り車両が軽いこと、◎駅間距離が短く、都市部を走行するため低騒音であること、◎加えて最近は自動運転が可能なシステムとなっていることです。ドバイメトロは鉄輪ですが、“ゆりかもめ”はゴムタイヤを履いています。低速で軽量であるということは軌道構造が簡単になりますので、軌道に限れば設計・工事上難しいことは何もありません。
 いままで世界のLRT建設は3強といわれるシーメンス(独)、アルストム(仏)とボンバルディア(加)のほぼ独占でしたから、ドバイメトロではこの3強に打ち勝ったという意義はあります。しかし、最高速度90km/hの無人運転で、しかも無線を使用した自動列車制御(ATC)であったため、日本メーカでは対応できない。そこで信号・通信、自動料金収受システムを含めたソフトウェアはThales いう多国籍企業(昔はAlcatelと会社だったが、Thalesに統合)に丸投げした格好になっています。Thalesは軍事関連の仕事が約半分ですが、防衛省に収めたはずのヘリに無線通信がついていなかったことで、有名になりました。
 余談です。実は日本の通信技術は遅れているんです。電電公社が長らく通信インフラを独占し、海外とは鎖国状態にあったため、日本だけ世界の標準からはずれたものとなりました。ケータイは安価なノキアなどの海外メーカは日本には参入できない。国際ローミングサービスも限られたものになっています。
 鉄道建設の技術は土木と電気・通信が主です。通常のプラント建設では土木屋、電気屋は縁の下の力持ちの存在で、プロジェクト全体をリードすることはありません。しかも、たずさわっているエンジニアはすべて土木科や電気科卒の単一民族です。同じ考えの集団が、同じ会社で、長期間、同じことを繰り返しやっていると、どうしてもムードが沈滞してきます。こういう状況を、ぼくは“たこつぼ”とか“デキン屋”とか以前皮肉ったこともありましたが、ここに来て撤回です。鉄道は電気のかたまりですからね。ただ、急に“デキル屋”に変身といっても、設計・建設を多国籍企業に発注し、その中で品質、価格、納期をコントロールしていく必要がありますので言うは易く、行いは難し。ボクシングで言えば、スパーリング・パートナーがいきなり世界選手権に出るようなもんです。国籍の違う人間を使って、プロジェクトを推進していくのはそれなりに、経験とマネージメント能力が必要です。
 今回のようにイタリアの企業がからむとプロジェクト・マネージメントは、より面倒です。相手はバカンスはしっかりとるし、契約書に書いてあろうがなかろうが納期はお構いなし。マンジョーレ(食べ)、カンターレ(歌え)、アモーレ(愛せ)のお国柄ですからネ。そういう会社がヨーロッパではちゃんと仕事になっているのが日本人のぼくとしては不思議なんですが。
 最近、なぜオマエには定年過ぎても仕事がくるのか、という素朴な質問がありますので、皆さんのご参考までに報告致します。もとは台湾で軌道トレーニングのとりまとめで2年間の契約だったのですが、MMIS(Maintenance Management Information System)という保守のためのデータとりまとめ作業が担当者が見つからず、長らくペンディングの状態でした。いつまでもほっとけなくなり、プロジェクトディレクターの山口さんからぼくに依頼がありました。安易にOKと言ったのですが、いろいろ調べたところ、これが大変な作業であることがあとで分かりました。でも、もうやるしかありません。国際標準化機構(ISO)で定められているTraceability(生産履歴管理)をクリアするには、レールは25m一本一本につけられたロット番号とその溶接データをすべて収集する必要があります。手書きのデータが現場から上がってきますが、レールは6万本、スラブ板は14万枚もあります。大体1.5%位は記帳ミスがあります。製造していない番号があったり、同じ番号が高雄にも台中にも出てきます。
 整理したデータが、実際に役に立ちました。ある時、新日鉄から担当者3人が来られ、レール製造時の欠陥の可能性が出荷後に判明したそうです。
MMISでは財産管理のため、使用した装置、機器はボルト、ナットの類まで部品を展開し、それをコード化して財産登録するのですが、分岐器はマクラギごとに部品が違うんです。どういうデータをどういう風にまとめるか、客先に仕様書を書いて承認をとり、データの提出完了まで3年かかりました。でも、MMISをやったおかげで、軌道部品については浅く、広く知識を得ることができました。
 ドバイにはトレーニングのとりまとめということで来ましたが、オー、マイアッラー。MMISのシステムの入れ物はイギリスの会社が担当していますが、現場の敷設データの収集・編集までは手がまわっていないことが分かりました。仕方がないので、ボランティアとしてMHIの社員を教育することになりました。ぼくのトレーニングの範囲には社内向けのも含まれていたんですかい。逆転の発想をすれば、もう少し努力してMMISの達人になればこれでメシが食えるということですよ。トレーニングもMMISも面倒くさいし、設計業務ではありません。こういう仕事がぼくに回ってくるんです。そこで一句。

 避けたいと
  思う仕事に
   チャンスあり

 九州電力の関連会社で働いていた壱岐さんは、会社からの出向で台湾新幹線のTest & Commissioning(工事完了から最終引き渡しまで、一連の性能試験や試運転・調整、略してT&C)の仕事に携わっていました。台湾の仕事が終わった時、いままでの会社をやめ、MHIと契約をしてT&Cのプロフェッショナルとしてドバイに来ています。ほかにも、設計の助っ人で何人も来ています。電気技術屋がどこの組織にも属さず、文字通り世界を股にかけ、仕事が出来るオモロイ時代が来たということです。
 海外で活躍するには技術のほか、英語でのコミュニケション能力が必要です。ここでは香港人が大勢働いています。なんせ、彼らの英語は発音は別にするとネイティブに近いですからね。
 本来なら、優秀な技術屋をいっぱい抱えているJR関係者がこういう仕事をやれば効率がいいのですが、JRの組織では海外に出られません。海外向けに海外鉄道技術協力協会(JARTS)という社団法人がありますが、こちらは技術コンサルティングが主ですから、金と納期が絡むプロジェクト・マネージメントはすべて民間がやることになります。いま、新興国はこぞって鉄道インフラの拡充を計画しています。台湾新幹線で初めて民間が鉄道建設をやりましたが、海外で活躍する鉄道エンジニアの絶対数が不足しているのが現状です。
 これは国際的にも同様な状態で、台湾で見かけたイギリス人が何人もドバイに来ています。会議に行くと客先にも入っていて、お互いに「オー、おまえもか」
 日本はすでにインフラが整っていますので、国内でこういう仕事を見つけるのはまず無理です。しかし、海外で一丁やったろー、という意気込みのある方、応援しまっせ。世界は広い。中東も、アジアも、アメリカもある。ひょっとするとブラジル新幹線も実現するかもしれない。古谷さんでなくても、“これはロマンだ“。もう上司を肴にして飲むこたーいりませんゾ。でもぼくはどこまでもつきあっておれません。ここらへんでリタイヤして、若い人にバトンタッチです。
 どっちが本物のアラビア数字でしょうか。考えると分からなく成りそうですが、下の数字(0,1,2,,,)はアラビア数字と言いますが、アラビア語ではインド数字。上はアラビア・インド数字というのが正しい。ゼロを発見したのはインドだった。

ナンバープレート

 バードギャラリー第2弾です。インコはもとは野鳥でした。金曜日の朝、タクシーであのフラミンゴのいる野鳥保護区に行き、柵の外で写真を撮っていたら、パトカーが来て、「ここは休みは立ち入り禁止」だと。野鳥にも休みがありましたか。鳥名調査は古谷さんと明日香さんでした。シュクラン。

Birds Gallery
Bird Sanctuary
観察小屋(小屋の向こうに白く見えるのがフラミンゴ、約150m?先)
飛びます、飛びます(ISO200,1/800秒、F16)
オー、ワンダフル
ワカセホンセイインコ(Rose Ring Parakeet)
オオホンセイインコ(Alexandrine Parakeet)
ホオジロヒヨドリ(White-cheeked bulbul)
イワシャコ(Chukar、キジ・シャコ属)

   
 マ・サラマ
 2008年10月

(C) 2008 Shinzo

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