シンゾーさんからのおたより-その21

   
2005.11


大家好。

東京は早くも暖房が必要な季節となったようですが、台湾はまだ19〜25度。快適な気候です。

すでに日本でも報道されましたが、去る10月30日台南〜高雄間の試験線(60km)で315km/hの速度試験を無事完了しました。プロジェクトXの田口トモロヲの口をかりるときっとこうなります。“そのとき机の上に立てたタバコは倒れなかった。コップの水もこぼれなかった。行政院長の謝は言った。「これはすばらしい出来だ」”

ぼくはまだ九州新幹線には乗ったことがありませんが、台湾と同じスラブ軌道を採用していますので乗り心地もいいのではではないかと思います。台湾でのスラブの敷設精度は設計値±2mm以下でJRの基準より厳しくなっています。自然災害が起こらなければ300km/hでの走行も問題ないでしょう。問題なのは地盤沈下です。すでにこの一年弱の間に複数箇所で高架橋が沈下を起こし、一旦敷設したスラブやレールを取り外し、再敷設しています。この沈下が収まれば、数年間はあまり保守の必要がないはずです。

鉄道の建設・保守は実に匠の世界です。台湾高鉄へ軌道保守の訓練をやっていますと、さまざまなその道の達人にめぐり会う機会があります。じっとレール見て、3、40m先を指差し、「猪原さん、あそこはちょっとふくらんでいますね。でもその差は2〜3mmですね」軌道保守、この道20年のTさんの言葉です。素人でしかも老眼の我輩には言われてもなかなか分かりませんが。

レールは特殊な箇所を除いてすべて溶接してあります。しかしこのレールの溶接品質が即乗り心地に影響します。溶接部分の仕上げが悪いとレールに高低差が生じ、これが振動や騒音のもとになります。溶接の仕上げに3年、と講師が言ったとたん、一斉にウォーという驚きともあきらめともつかない声があがりました。

レールは25mのものを8本つないで、まず200mのロングレールを作ります。この溶接は1次溶接といい、一連の作業をフラッシュバット溶接機により自動的に行います。わずかの間隔をあけて設置した2本のレールに大電流を流し、発熱で鉄が溶けたところで圧力をかけて接合(圧接)し、その後バリをとります。この間2〜3分。同じレール同士ですから、まっすぐになっていればあまり品質上大きな問題はありません。

次に200mのレールを現場で5本つないで1kmにします。これを2次溶接といい、ガス圧接の方法で行います。原理は1次溶接と同じですが、電気ではなく、プロパンガスを使って鉄を溶かし圧接します。

レールは約1kmごとに信号用の特殊なレールが敷設してあります。これはレールの間に絶縁物を挟んだ構造で接着絶縁レールといいます。おおむね10mの長さのものが使われています。車輪を通 じて左右のレールが短絡状態になると、この1km間に車両が来たと判断し、前を走る車両との間隔から後続車両の速度を自動的に制御するようになっています。したがって、接着絶縁レールの位 置は信号で決定されこれを勝手に動かすことはできません。

そこで接着絶縁レールと先ほどの1kmのレールとの溶接(3次溶接)は25mmの間隔をあけてその間に鉄を流し込むテルミット溶接で行います。このとき、台湾の場合はレール温度が34(設定温度)±3℃で溶接するようになっています。レール温度が37℃以上では溶接は許されません。したがって夏場ではレール温度が下がる夜間に行います。レール温度が31℃より低い場合はレールが設定温度まで膨張した時の長さになるように油圧装置でレールを引っ張った状態で溶接を行います。1kmの長さのレールは温度差10度で約11cm伸縮する計算になります。

締結装置はこの設定温度±35℃の範囲ならばレールに応力がかかったままの状態でもレールの位 置が変化しないように締結装置で固定してあります。したがって年間を通 じて0〜70℃のレール温度の範囲内であれば、レールが曲がったりするようなことはありません。もし、70℃以上のレール温度になると、レールは動く可能性がありますから列車は徐行あるいは停止となります。日本では北と南では年間平均気温が異なります。そのため、設定温度は当然違いますが、許容される温度範囲はどこでも設定温度±35℃です。

テルミット溶接は酸化鉄にアルミニウムの粉末を混合したものをルツボにいれ、アルミウムに点火し、その発熱を利用して純鉄を作るもので化学反応式を書けば下記のようになります。
   2Al + Fe2O3 = 2Fe + Al2O3

以下はトレーニングの時の写真です。

1.レールをセットしたところ。間隔は25mm。レールの上下左右の位 置の調整がむずかしい。 2.溶接用キットの下部をセット。溶融鉄がもれないように砂で装置のまわりをかためる。
3.溶接用キットの全体セット完了。 4.装置をガスで予熱する。
5.材料を投入したところ。 6.アルミに点火
7.アルミが激しく燃え、鉄がとける。 8.とけた鉄が溶接部へ流れ落ちる。
9.油圧装置で余盛部分を削り取る。 10.溶接部の仕上げ。

レール鋼は一般建設用鋼材より炭素量が多く(0.7%)、硬度も引っ張り強さも高めてあります。しかし1次、2次溶接と異なり、テルミット溶接では、溶接部は純鉄です。このため溶接部はレールより軟らかく、磨耗を受けやすくなります。難しいのは水平な状態で溶接すると溶接部が常温に冷却する過程で縮んで落ち込みができます。そこでレールを若干上に凸 の状態で溶接をするのですが、あまりやりすぎるとレール面が曲ってきますからここらへんが匠の世界です。テルミット溶接の位 置はレールの腹部が膨らんでいますので容易に見分けることができます。

テルミット溶接は日本の在来線でも多く使われていますが、新幹線では採用されていません。過去(30年位 前)に一度採用されましたがレールの損傷事故が相次ぎ、そのときの苦い経験がトラウマとなり、高速鉄道には使えないとされています。今では溶接技術も材料も改良されて欧米ではごく当たり前に高速鉄道にも採用されています。JRの人に敢えてこの点を聞いてみましたが、即あれはダメだと言われます。3次溶接は日本では溶接棒を用いた通 常のアーク溶接を行っています。しかし、これはテルミットよりはるかに高度の熟練作業となりますので多分日本以外ではできないでしょう。

レールは特殊な箇所を除いて溶接で全部つながっていると書きました。この特殊な箇所は、橋です。橋は温度変化で伸び縮みしますから、その影響をレールが受けないような構造にする必要があります。これを伸縮継目といい、レールがスライドするようになっています。台中にはこの装置が橋の両端に16台設置されています。それ以外は台北から高雄まで345km全部つながっています。              

▲伸縮継ぎ目

台湾新幹線は民間、在来線は国営です。このため、在来線と駅がつながるのは台北だけ。しかも、台北に乗り入れできるようになるのはいつなのか。実は台北に入る軌道はトンネルで地下を通 りますが、このトンネルはもともとヨーロッパの車両が通ることを想定されて作られています。ところが、日本の車両はヨーロッパより大きいため、トンネルと車両のクリアランスが問題だと。でも何で今頃問題になるの。

左の写真は建設中の新幹線の台中駅の一部です。なぜか馬鹿でっかいんですねぇ。            

▲新幹線台中駅
▲在来線の台中駅

今回は鉄っちゃん仲間への入門編でレールとレール溶接でした。でも、これだけであなたはもうプロ。きっとレールを見る目も変わるはずですよ。わかった?

温帯、亜熱帯、熱帯の混在した台湾は渡り鳥のルートになっています。シベリアから、長野から台湾を経由してフィリピンへと飛んでいきます。10月10日バードウオッチングの仲間でバスをチャーターして最南端の墾丁(カンディン)というところまで行ってみました。残念なるかな。この日は気流がよくないせいか一羽も飛んで来なかった。あくる日4000羽が飛来したというのに。

ぼくがバードウオッチングをしていると言うと、テニス仲間がなかなか信用してくれない。その鳥は2本足で歩くやつかい? タイワン ネイチャーだというとタイワン ネイチャンかい? と聞いてくる。台湾にしかいない五色鳥というきれいな鳥がいます。木の中にいるのですが鳥の緑がまわりの色と溶け込んでいるので捜すのがなかなか難しい。ぜひとも皆さんに見て頂きたいと思っているのですが。

すずめは麻雀(マーチエ)。マージャンは麻将。台湾にはハシブト烏はいません。なぜなら生ごみは道端に出さず、夕方収集車が来たとき一斉に持っていくからです。日本も見習ったらいかが。

今年もあと少しになりました。3回目の正月を台湾で迎えることになります。こちらの気候に慣れたら、冬の日本はつらいですノー、ご同輩。

再見

2005年11月

 2005.11(c)Shinzo

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